校長式辞

2023年度卒業式 校長式辞

 ようやく春らしさを感じられるようになった今日この日、和光中学校は卒業生を送り出します。卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。そして、卒業生を今日まで見守ってきた保護者の皆さま、3年前より心も身体も大きく成長したお子さんの姿を感じておられることと思います。心よりお祝い申し上げます。

 皆さんの多くは、2021年4月和光中学校に入学しました。まだ新型コロナウイルス感染症への対策を、学校が様々に取らなくてはならない中でのスタートでした。館山水泳合宿は1年生の時は最初から実施できず、2年生の時は直前での中止となってしまいました。そのような中、「行事がなければ和光じゃない」という声を聴きました。自分たちが行けなかったという残念な気持ち、やるせない気持ちをどうぶつけたら良いのか分からないということの反映だったと思います。

 そんな中でも3年生の皆さんが着実に成長していると感じられたのは、和光祭の秋田学習旅行発表会で聞いた学年合唱『正解』の歌声と、つい先日の卒業演劇でした。卒業演劇では、各クラス、テーマも大きく違ってそれぞれでしたが、立派な舞台を作りあげていました。後で、実は各クラス様々なドラマがあったということを聞きました。まるで集中ホームルームのような話し合いがあった、というクラスもあったようです。和光中学校は日ごろ対話というものを大事にしていますが、対話というものには実はタイミングというものがあり、そのクラスにとっては演劇祭直前がまさにその機会だったのでしょう。

 もう一つの合唱のことで言えば、皆さんの合唱を聞きながら、実は私は体育館の片隅で、密かに涙を流していました。何度聞いても思うのですが、和光の中学生の歌声には人の気持ちを動かす力があるように感じます。そして、皆さんが歌っていたのが、Radwimpsの『正解』という歌だったことも影響していたか、と思います。実は、校長になって最初の高校の入学式で、この歌の歌詞を取り上げながら、学ぶということはどういうことなのか、話をしたのでした。その時のことを思い出していました。

 「答えがある問いばかり教わってきたよ」と歌詞にありますが、世の中の多くの中高の授業や、高校・大学の入試問題は答えが一つに決まるものが圧倒的に多い。しかし、そこで問えるのは知識を知っているか否かであることがとても多いと私は思っています。知識は無いよりは有るほうがよいけれど、知識だけでは答えが出ない、困難な問題が世の中にはたくさんある。戦争の終わらせ方、自分たちの社会を今後どのようなものにしていくか、などなど。みなさんには、「答えのない問い」を見い出し、考え続けて欲しいと思います。

 この『正解』という歌の歌詞で、私はもう一つ気になった部分がありました。それは「君にみつけてもらった自分をはじめて好きになれたの」というくだりです。

 十代の半ばから後半にかけて、思春期と呼ばれる時期ですが、多くの人がこんな自分でいいのだろうか、と思い悩みます。だから、自分のことが好きになれない、自分に自信が持てない、ということが起こり得るのだと思います。それはなぜかと考えてみると、一つには、自分の思う通りにならないことが増えていくからではないでしょうか。小学生の時には、将来プロ野球選手になる、歌手になるとか、卒業アルバムに書けたとしても、十代も半ばになれば、その可能性がある人は相当限られてしまいます。勉強にしても、中高になれば授業以外のところで努力することも求められてくる。大変なんです。

 先ほどの歌詞に戻れば、自分とは何者なのか、ということは、自分ではあまり分からないところもある。もっと言えば、他者の評価があって初めて自分に自信を持てるということもあるでしょう。だから、「仲間と関わりながら自分を見つける」ということが大切なのだ、と思います。そして、和光という学校は、授業でも自治活動でもこのことを大切にしてきました。ですから、今までの経験に自信をもって、皆さんには、これから進む新しい道で、新しい人と関わりを持つことを恐れず豊かな関係をつくっていってほしいと願います。

 さぁ、旅立ちの時です。どうかお元気で。何年か先、さらに成長した皆さんの姿を見られることを楽しみにしています。

2024年3月15日

和光中学校校長 橋本 暁


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