卒業式 式辞

先週、和光中の3年生たちが本校を巣立っていました。コロナ禍の中、行事ができずに生徒がどれだけしんどい思いをしていたかを、そして今ウクライナで起きていることを考えると、本当に何を話すか迷いました。卒業生たちに私のメッセージが伝わってくれたら、と思います。そして、当日の生徒たちの表情に確かな成長を感じた卒業式でした。
彼らの未来に幸多かれ。


2021年度和光中学校卒業式 式辞
春の陽気を日々感じられるようになり、様々な花々も咲き始める中でみなさんは卒業の時を迎えることになりました。平坦とは言えない3年間だった訳ですが、先ほど、卒業証書を授与した時の、皆さんひとり一人の晴れ晴れとした顔から皆さんの成長を感じました。卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。そして、卒業生を今日まで見守ってきた保護者の皆さん、心よりお祝い申し上げます。

実は今回、皆さんにどのような話をしようか、迷うところがありました。現在のウクライナで起きていることに全く触れずに、言葉を述べるのも何か不自然のような気がする。しかし、社会科の授業の時間ではないのだから、とも思います。ですから、今は、何の罪もない子どもたちが戦火におびえていて、食べることや寝ることさえ保障されていないことに思いを馳せ、そして、今回起きていることは、第2次世界大戦以来の大きな情勢変化になり得るということを頭の片隅に入れておいてもらえれば、と思います。

さて、学校の先生が好きな言い回しで「努力は裏切らない」というのがあります。間に「君を」という言葉が入ることもありますが、私はこの言い回しはしばしば誤解されている、と思っています。スポーツ選手などもよく、あの時練習を頑張ったから結果につながったという文脈でこの言い回しを使いますが、本当にそうでしょうか。

このことに関して、フィギュアスケートの羽生結弦選手が先月のオリンピックの際、語っていたコメントを紹介したいと思います。羽生選手は4年前、8年前のオリンピックで優勝して今回三連覇がかかっていたのは知っている人も多いかと思います。4年前のピョンチャンオリンピックでの羽生選手は、怪我で3か月のブランクがあったにも関わらず圧倒的な滑りで二連覇を達成しました。その時のことはとても印象に残っています。その彼が今回はどんな滑りを見せるのだろう、前人未到と言われる4回転半のジャンプを大舞台で成功させれるのだろうか、という関心はありました。4回転半のジャンプはできた、ということで認定されましたが、結果は4位に終わり三連覇は逃しました。
やっとコメントを紹介できますが、羽生選手は競技後、こう言ったのです。「正直、これ以上ないくらい頑張ったと思います。報われない努力だったかもしれないけど」。羽生選手が練習しているのをずっとそばで見ていた訳ではないけれど、彼が4回転半ジャンプに向けて想像もつかないような努力を積み重ねていたことは疑いようがないでしょう。この言葉を聞きながら、昔大学受験の結果を待っている時、自分の父親に唐突に言われたことを思い出しました。それは「自分のした努力が全て報われるのなら、そんな幸せなことはないんだよ」というものでした。羽生選手の挑戦と私の大学受験の話と並べるべくもありませんが、当時の私も「やれることはやった。結果は分からないけど」と思っていました。
ですから、「努力は裏切らない」というのは、努力すれば結果につながるということではなく、「自分はやれるところまでやった、後悔はない」ということなのだ、と思います。実際、羽生選手も「全部、出し切ったっていうのが正直な気持ち。あれが僕のすべてかな」とも言っています。やれるところまでやったという思いがあれば、先に進めるということか、と思います。

コロナ禍でのみなさんのこの2年間、個人がどんなに努力してもできない、届かないものはありました。それでも全力で取り組んだ経験のある人は確かな手ごたえを感じていたのではないでしょうか。先日の3年生の卒業公演の姿を見て、私は心からそう思いました。

ウクライナやコロナのことなど、先行き不透明な状況はしばらく続くでしょう。そのような中でも、やれることには全力を傾けて後悔の無いよう、これからの未来を歩んでいって欲しい、と願っています。

2022年3月15日

和光中学校校長 橋本 暁





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