卒業式がありました

 コロナウィルス感染の広がりが心配される中でしたが、規模を縮小し時間も短縮した上で、先月3月14日(土)に卒業式を行うことができました。

卒業生の門出を何とか祝うことができて、本当に良かったと思っています。

以下は当日の式辞です。

新しい学校での生活が一刻も早くスムーズに始まることを今は祈るばかりです。


卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。そして、卒業生を今日まで見守ってきた保護者の皆さん、お子さんのこの3年間の成長を感じておられることでしょう。心よりお祝い申し上げます。


さて、今日の卒業式は、新型コロナウィルス感染対策の一環として、規模を縮小した形で行わざるを得ません。生徒のみなさんの中には、悔しさを感じたり残念に思っている人も多いと思います。しかし、和光中学校に関わる人が集って、3年生の卒業を祝う場が持てるということを大切にしたいと思います。

未知の病原体が発生するということ自体は、歴史上何度もありました。最近でも2009年に新型インフルエンザが流行したことがあります。医学が発達する前は病原体のほとんどが未知で人々に脅威を与えていました。中世のヨーロッパでは、ペストという病気が大流行しました。黒死病として恐れられていたのです。黒死病という名前は、体の中で内出血が起こり、皮膚が黒くなることから来ています。数千万単位で人が亡くなり、人口が大幅に減ったといわれています。幸い、今は医療体制が整いそこまでのことにはならないと思いますが、警戒は怠ってはならないでしょう。そして、新型コロナウィルスをめぐって、今の日本の社会で起きていることは、私たちに様々なことを考える材料を与えてくれます。小国綾子さんという記者が新聞の夕刊に書いていた話をとりあげてみたいと思います。

ある年配の女性が、薬局の待合室で薬の処方を待っている時、持病の発作が出たそうです。マスクをつけ、息を荒くし、発作が治まるのを待っていた時のこと。 「おまえ、コロナだろ。出ていけ!」と、待合室にいた年配の男性から怒鳴りつけられた。あまりの勢いに、薬局を追い出され、道路にうずくまっていると、ちょっとしてからでしょうか、薬局のスタッフが薬を渡そうしました。その時、男性はさらに「ドアを開けるな。コロナがうつる。コロナは家から出てくんな。迷惑だ!」。薬局スタッフに女性は「薬は郵送します」と言われてしまう。彼女は悔しくて泣きながら帰ったそうです。

みなさんは、この話を聞いてどう思いましたか。

この年配の男性、ひどいなと思った人は多いでしょうね。この男性は人としてどうなのか、ともちろん私も思いますが、それ以上に私が引っかかったのは薬剤師の態度です。小国さんは、続けてこう書いています。「薬剤師は処方箋を見て、発作が持病のためだと分かっていたはずなのに」。私は、薬剤師の人は言うべきことを言っていないと思います。「この方はコロナではなくて別の病気なのですよ、心配することはありません」。おかしいことに対して、それは違うと言ってないのです。

「おかしなことに対し、きちんとおかしいと言える」ということは、和光中で大事にしてきたことだと思います。実際、どこまで実現しているかはともかくとして「お互いに言いあえる関係」というのを私たち、和光の教師はみなさんに求めてきました。みんなが口を閉ざしてしまえばどんな社会になってしまうのか、その一つの例を先ほどの話は示しています。

改めて卒業生のみなさん一人ひとりに、おかしなことはおかしいと言える人になってもらいたいと私は思う。しかし、薬剤師の人のようにそうなれないこともあるかもしれません。薬剤師の人は、自分が暴言や、場合によっては暴力を受けることを恐れて言えなかったのかもしれないですね。そうではあっても、次は勇気をもって言おうと思えたり、言い方を工夫すれば伝えられるかもしれない、と本人が意識すれば次につながります。仮に、ものが言えないのなら、そのことを自分の中に抱えておくことが大切なのではないでしょうか。

こんな話をわざわざ付け加えたのは、私自身、全てのおかしなことにおかしいと言えている訳ではないからです。さすがにいい歳ですから、ものが言えないということはかなり減ってきましたが、全く無い訳ではない。私もみなさんと共に努力していかなければ、と思っています。

おかしなことがおかしいと言える社会は、無責任な決定や一部の人のやりたい放題を許さない社会でしょう。そのような社会を卒業生のみなさんと共に私たち大人もつくっていければと思います。

2020年3月14日

和光中学校校長 橋本 暁







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